どうも。
泉北の室之園です。
久しぶりの投稿になりました。
今年から毎月1冊、読んだ本の感想をブログでまとめてみようと決めました。
もしかしたら今月で終了するかもしれませんが…
とりあえず「アウトプットする」という目標がないとなかなか読書が習慣化されないので、勝手にやっちゃおうと思います。
今月の本はコレ
「作業」って何だろう
作業科学入門
吉川ひろみ先生という、
作業療法士の方なら知らない人はいない、
とても有名な作業療法士の方が執筆された本です。
世間でも「理学療法士さんは知ってるけど、作業療法士さんは何をしてくれる人なの?」
と言われることがよくあります。
作業療法士のなかでも作業療法とは何かを説明できる人はそう多くない、と吉川先生は話しています。
●作業の定義
当たり前ですが、作業とは人が何かを行うことです。
世間で用いる作業と、作業療法士のなかで用いる作業には少し違いがあります。
作業療法士が定義する作業はいくつかありますが、そのなかで共通するのは
人間が自身の人生にとって意味や目的をもって行う行動や特徴、パターン
があります。
そしてその作業を通して社会参加を実現する方法(治療のために作業を使う)として作業療法があります。
作業科学とはその「作業」そのものについてもっと深く考えていこう、というものであり、
本書は作業科学を理解するための入門書のようなものです。
●作業をすることは良いことばかり?
作業療法というだけであって、作業は人間にとって良いことだと思われがちです。
でも人を健康にする作業(音楽鑑賞、スポーツ、旅行、友人と遊ぶ、美味しいものを食べる等)もあれば不健康にする作業も当然ながら存在します。
働き過ぎること(ワーカホリック)、アルコール依存症、薬物依存、喫煙、食べ過ぎること等の作業は人を不健康にする作業です。
作業は人を健康にもするし、場合によっては不健康にもなります。
またその作業を行う上で『人』『環境』もとても重要になってきます。
●健康の定義
一般的に健康とは病気ではないこと、をイメージしますが、必ずしもそうとは言えません。
健康とは身体的、精神的、社会的によい状態であること、とあります。
これはWHOが定めたオタワ憲章のなかで詳述されています。
●作業科学に必要な視点
同じ作業遂行は2つと存在することはありません。
ゴハンを食べる、という作業も"誰と食べるのか"、"どこで食べるのか"で全く変わってきます。
また同じゴハンをAさんと、Bという場所で食べたとしても、昨日食べたのか、明日食べるのかでは全く別の作業になります。
このように"ゴハン"、"Aさん(人)"、"C(環境)"といった要素に分けるのではなく、融合し合った全体となっていく状態(トランザクション)がある、という視点をもつことが大切になります。
●作業的存在
作業をすることによって、人は自分自身がどのような存在かが決まってきます。
また、どんな生涯を送るか、どの集団に属するかも決まっていきます。
それをオーストラリアの作業療法士、アン・ウィルコック先生が「d+b3=sh」と表現しています。
● d+b3=sh
これはdoing(作業)+being(存在)、becoming(将来の自分)、belonging(所属)=survival(生存)、health(健康)の略称です。
アン・ウィルコック先生は行うこと(doing)、自分があること(being)、将来の自分になっていくこと(becoming)、そしてもうひとつ所属すること(belonging)が生存(survival)と健康(health)を可能にすると考え、さらにこれが健康を増進し、病気や障害を予防すると考えました。
またこのような状態を支えるものの一つに作業的公正が必要だと述べています。
●作業的公正
人が何かを行うことを出発点として生きていくためには、自分にとって意味のある作業に公平に参加する機会が必要です。
そしてこの公平が保てていない状態、意味のある作業が行えていない状態を作業的不公平(作業機能障害)と呼んだりします。
これを先述したアン・ウィルコック先生と、カナダの作業療法士、エリザベス・タウンゼント先生が世界数カ所にわたってワークショプを行い、提唱しています。
●作業的不公正
アン・ウィルコック先生とエリザベス・タウンゼント先生は作業的不公正を@作業疎外A作業剥奪B作業周縁化C作業不均衡という4種類で考えられると指摘しています。
@作業疎外
朝起きて、仕事に行って、帰って、寝る、といった毎日の単調な生活のなかで、作業を通して生きている実感を持てない、成長することもできない人によくみられます。
A作業剥奪
外的な力で作業が長期間にわたって奪われている状態。災害で家を失い、避難所で暮らしている人たちはこの作業剥奪を経験します。
作業を奪われ続けると、身体は弱くなり、気力も失せ、社会とのつながりもなくなっていきます。
作業剥奪は健康状態の悪化につながります。
B作業周縁化
隅に追いやられている状態。
何か作業は行なっているが、それが周辺的な些細な価値しかない場合を作業周縁化と呼びます。
自分の能力を発揮できない些細な仕事ばかりをしなければいけない場合もこれにあたります。
C作業不均衡
不均衡とはバランスが損なわれている状態を指します。
ワークライフバランスや働き方改革、サービス残業廃止などが必要だと言われるのは働き過ぎを問題視しているからです。
ただしこのバランスがとれているかどうかを判断することは難しく、自分が楽しいと感じる仕事ができている人は、必ずしも自分が働き過ぎているとは感じないこともあります。
●作業科学と作業療法
作業をしているうちに、病気が治ったり、心身機能障害が軽くなったりすることから、作業療法が注目されました。
作業には力がある、作業の力をみんなが知り、自分の人生に活かしていってほしい、という願いは各地、各分野に発展していきました。
アメリカの作業療法協会初代会長であり、建築家であるジョージ・エドワード・バートン先生は作業の力が高まるには次の6つの条件があると話しています。
@選択、リスク、責任
自分で選び、リスクを引き受け、結果の責任をとるときに、作業の影響力が高まります。
Aクライエントの参加
クライエントの参加があってこそ、作業の力が現れます。
B可能性の見通し
作業は簡単過ぎても難し過ぎてもいけません。
できるという可能性の見通しがあるとき、その作業を頑張り続けることができます。
C変化
前例重視の組織や事なかれ主義の集団においては作業の力は小さくなります。
作業を通して、人も、環境も変わり、理想に向かって社会変革を起こしていくことを望む状況が作業の力生まれることを奨励します。
D公正
不当な差別や人権侵害がある社会では意味のある作業を行うことを抑圧されてしまいます。
誰もが自分にとっても社会にとっても意味のある作業を見つけるための公正な機会が必要です。
またそのための支援を公正に受けることも必要です。
E力の共有
多くの作業は一人ではできません。
誰かとともに行うことで作業の力は強まります。
したがって作業療法士とクライエントとの正しい関係は協働関係である、ということになります。
●作業療法における作業科学の応用
作業科学を正式な学問として誕生させた南カルフォルニア大学の研究者たちは、作業科学を応用した作業療法を報告しました。
同大学のフローレンス・クラーク先生は作業ストーリーテリングと作業ストーリーメイキングを個人の作業研究で行いました。
作業ストーリーテリングではクライエントが自分の作業について自発的に自然に話すことができるよう心がけます。
作業ストーリーメイキングは作業ストーリーテリングでわかったストーリーを将来へ向けて新たに作っていくことです。
また作業療法士はその作業がクライエントの将来にとってどんな意味があるかを語ったり、進歩していることをフィードバックしたりします。
作業療法士はクライエントが自分の将来の作業についてあれこれ考えるときに、問題を整理していくようなコーチ的な役割が求められます。
以上です。
まとめたつもりがこんなに長くなってしまいました。。。
まだ伝えきれていない所ばかりですが、もし作業科学に興味のある方がいたら、一緒に学んでいけると嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。