2021年06月01日

読書感想ブログその6〜臨床実習ガイドブック〜

どうも。
泉北 兼 心意気実践チームのむろのぞのです。

今月の本はこれ

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作業療法士・理学療法士臨床実習ガイドブック




●はじめに

「教育」であるはずの臨床実習が希望を奪うようなものでいいのか。

学生たちが抱くこういった不安や疑問は解決することが求められる課題である。

ときにこれら不安、疑問を原動力に奮起する学生もいます。

ただ、すべての不安、疑問が肯定的に作用するわけではない

不安、疑問にからめとられて臨床実習に全力で取り組めなくなることもある。

場合によってはOT、PTの道を断念する者もいる。

どうして学生の不安や疑問は尽きなくてこんなにも大変なのか。
考えられる理由として学生の立場からすると、どのような困難に直面するのかがよくわからないことが挙げられる。

また臨床実習について熟知している人がなかなか身近にいない、という点も考えられる。

私たち作業・理学療法士は臨床家としてトレーニングは受けているものの、教育者として求められる知識や技術についてはほとんど教育されていないため、学生が抱く不安、疑問に対してどう教育的に応えるべきか、十分に理解していないのが現状である。

本書に書かれてある様々な不安や疑問は実習指導者の耳にはなかなか届くことのない学生の声である



冒頭に書かれてあるこれらの内容から、
この本はスーパーバイザーが読むべき本であると確信しました。

スーパーバイザーは実習生の声なき声に耳を傾けることが大切です。

ただしその全てを聞き取ることが難しいのが現状です。

本書はその聞き漏らしてしまいそうな学生らの声を拾い上げるための一助となるものであると感じました。

これまた長い長いブログですが、関心のある方はご一読ください。





●臨床実習中ー第2節ー臨床実習の実際

・掃除や片付けって学生がやるもの?
【利点】:器具が確認できる。どこに何があるか把握できる。電源を入れたり簡単な操作ができると便利。

これに対してもし疑問があったとしてもまず学生側からは言わないでしょうね…。
だからこそ指導者側は「何で掃除や片付けをした方がいいと思う?」
といったことを聞き、助言してあげることが大切なのかもしれません。





●臨床実習中ー第3節ー利用者(患者)さんとの関わり方

利用者さんとの治療的信頼関係を築くためのコツや留意点は?
1、感謝と誠意@相手の目をしっかり見るA言葉は明確にB相手の話にうなずき共感的にC相手の状況を察するD笑顔を忘れない
2、情報と距離:学生がより同調できるようにアンテナを高くする(共感性をあげる)、物理的距離の考慮
3、自己点検:自分自身(学生)の状態がどのようなものか把握する

インフォームドコンセントの留意点
・告知内容
@今から行う医療行為の名称
A内容
B期待されている効果
Cリスク

リハビリテーションにおいては:
@どのような障害であるか
Aそれに対するリハビリテーション治療(利点、欠点)はどのようなものか
B治療しない場合どのような経過をたどるか

・告知内容の詳細
リハビリテーションを成立させている主たる要因に、利用者さん自らの能動的な運動や作業が含まれているか

・信頼関係を築く
利用者さん自身の能動的なかかわりが必要

・選択権は利用者さんにある
できるだけ専門用語は使わない。利用者さん自身に治療を選択させる

・選択肢を吟味する時間を与える
利用者さんが考える余裕を持てるようにする



僕が学生時代のころ、「とにかく真面目に一生懸命頑張れば大丈夫!」と教員の方に言われたことがあります。

…。

そうなんです。
抽象的過ぎて具体的に何をしたらいいか全くわからなかったんです。

この通りにすれば必ず信頼関係が築ける訳ではありませんが、多少は具体的な行動に移すことはできますね。





●臨床実習中ー第4節ースーパーバイザーとの関わり方

先生によって言うことがまったく違う。
ときに対立するし、どう対応したらいい…?

結論
→学生自らが積極的に対立のなかに入らない(関わらない)

なぜなら正しさに絶対はないから!

・長時間続くフィードバック
日本OT協会の「OT教育の最低基準」のなかには実習指導の時間は勤務時間に含まれていないと明記されてあるそうです。

フィードバックが長時間になる要因として・・・

@利用者さんの数が多すぎる
Aスーパーバイザーの指導が熱心すぎる
B学生の力不足

改善されなければ担任の先生に相談

・スーパーバイザーに相談したくても忙しそうで質問できない
デイリーノートを活用!
→質問したいことを記載する

質問は保障を得る手段。
スーパーバイザーから「保証」をもらえれば安心して実習できる

・フィードバックがあいまい
指導された内容は面倒でもデイリーノートに記録しておく

デイリーノートの活用
スーパーバイザーのやり取りを記録しておく(できれば詳細に)

@スーパーバイザーは指導した内容を再確認できる
A誤った認識になっていたら軌道修正できる
B学生がどれくらい理解できているか把握できる



スーパーバイザーの指導が熱心過ぎる、という部分は本当に気をつけないといけないですね…。

これに関しては学生の立場からは絶対言えないでしょうし、周りのスタッフからもなかなか声をかけてもらえない部分だと思います。

「フィードバックの時間は〇時まで!」と決めておくことも重要だと感じます。

また実習では言語でのコミュニケーションが非常に難しくなるため、デイリーノートを交換日記的な位置づけで活用することはとても大切ですね。





●臨床実習中ー第5節ーレポートの書き方

レポートにはどんなことを書けばいいのか?
よくある勘違い
経験したすべての事実をレポートに書かないといけないと思っている学生はいる

・考察が書けない
関心のあることから考えていく
→道筋はしっかりしていなくてOK。
まずは時系列に記述していく

考察を深めるときは文献を活用
→ただし文献を優先すると症例に対する考察ではなくなってしまう

・日々の利用者さんの記録を書くポイント
客観的事実→『現象』
主観的事実→『説明』

・レポートにたいするコメントへの対応
スーパーバイザーのクリニカルリーズニングを学ぶ
クリニカルリーズニングの理由を考える

※クリニカルリーズニングに関して気になった方は以前紹介したブログ(リーズニングとは)を参照ください




●臨床実習中ー第6節ーハラスメントへの対応
パワーハラスメント@:人格攻撃型
スーパーバイザーのへの相談は厳禁!
→養成校の先生or実習施設の責任者

さらなる激励が必要だと判断し、結果的にパワハラが悪化

ハラスメントに関しては他のどの項目よりも実習指導者側強い意識気づきをもつことが必要です。





ここまで実習に関する様々な疑問や課題を紹介させていただきました。
ここからは偉大な教育哲学者たちの話をもとに、臨床実習をより有意義にするうえで役立つ視点を紹介したいと思います。

学生に向けて書いてある内容ではありますが、個人的には実習指導者も十分読む価値のある内容であると感じています。





●コラム1 教育とは何か(総論)


“人間は自由を目がける存在である”(近代哲学者ヘーゲル)

教育の本質は「自由の実質化」
自由になるための営み

欲望をもっている時点で絶対的に自由であるというわけにはいかない
欲望が叶えられない「不自由」を感じている
→必ず何らかの形で「制限」された存在である
右矢印1この制限から「自由」になりたい

自由とは:環境的にも欲望的にも私たちは制限されているけど、それでもこの制限から解放された、または解放されうるときに実感する感度

幸福:何をもって「幸福」とするかは人によって違う→ある「欲望」が達成されたときに感じるもの

教育「自由」を実現させてくれるもの。今の「労働」「努力」によってゆくゆくは「自由」になるんだ、とちゃんと自覚させてくれるもの





●コラム3 ルソー:幸せになるために

“欲望を抑制せよ”(ルソー)

「自由」だからこそ欲望が膨らむ
大きな欲望はなかなか叶わない。だから苦しく思う
→何でも自分で決めなければならない

教育は欲望と能力のギャップを埋めるための役割を担う





●コラム6 デューイ:なすことによって学ぶ

デューイ:『経験主義』
人間は“経験によって学ぶ存在である”

“人類が築き上げてきた膨大な「知識」はすべて人類の「経験」を通して得られたもの”
いろんな学びがその子(人)の生活にとってどんな経験につながるのか、まずそこを伝えられる必要あり

人間の学習はいつでも生活経験に密着している
でも今日の学校での学びはどうか?
→決められた教科、内容を学び、それが生活経験にどう関わるのかわからないまま過ぎていく

最初にあるのは一人ひとりの子供たちの生活経験
生活経験に必要な知識なら子供たちは主体的に学んでいく
右矢印1『なすことによって学ぶ』

“なすことによって学ぶ”の過程
(1)ある困惑や混乱といった問題状況が訪れる
(2)その問題状況がいったいどういうものか見極める
(3)問題状況の要因などについての分析やさまざまな情報を入手する
(4)問題解決のための仮説を立てる
(5)仮説を実行し、問題を解決する

教育者は(1)(2)をいかに問題提起させられるかがカギになる
(1)(2)を問題と捉えられるかどうかで(3)(4)(5)は決まっていく
そのため(1)(2)がスルーされてしまうと何の行動もとれなくなる


問題解決の方法に自覚的であることが「なすことによって学ぶ」際に大切なこと





以上です。
今回もなかなかのボリュームと濃い内容となりました。

(たぶんここまで読んだ人は相当マニアックな方だと思います…)

学生にとって「実習はある程度厳しいものでないといけない」という意見も間違っていないと思います。
ただ、それが学生の学ぶ意欲や希望を失ってでも実践すべきことかどうか、と問われれば多くの疑問点が残ると感じています。

泉北事業所では今月より実習生が来てくれることになっています。

この本を通して学んだことを実践し、学生さんの希望を奪わないための学びを提供していきたいと思います。

最後まで読んでいただき
ありがとうございました。
posted by Active at 09:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 泉北(室之園の)日記