2021年10月14日

STの基盤

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利用者さんと外を歩いていて見かけた、ご近所さんの庭先のゴージャスなお花。
「たぶん、ふようだと思うよ」と利用者さん。
調べると、大正解。
「芙蓉」でした。
ST水野です。


約20年前、私がSTの卵だったころの話です。

臨床実習で出会った失語症の患者さん。
自分の担当ではなく、バイザーの先生が実習中に私が失語症の方との関わりが少なかったことを気にかけて、実習最後に話す機会を設けてくださいました。

運動性失語症があり、半分以上が白髪の男性。
ことばはほんの少し出る程度、こちらの質問に対してよく反応してくださり、男性の表情・うなずきや・首を傾げたりする様子から意思を読み取ろうとしていました。

どういう流れだったかは覚えていませんが、男性のご家族の話題になりました。
男性は何かをいっしょうけんめいに訴えました。
ことばにならない声が男性の口から出ていました。
質問への反応でわかったのは「息子さんがいること」。

紙に息子と書き、その紙と鉛筆を男性に渡すと、男性は息子の隣に「6」を書きました。
「6…6歳ですか?」男性はうなずきました。
「息子さん、6歳なんですか?」男性はうなずきます。
「息子さんですよね?お孫さんではなくて」男性はまたうなずきました。

それからも男性の訴えは続きました。
息子さんのことを伝えたかったようです。
文字で選択肢を示しますが、首をふられ続けました。
私は言いました。「ごめんなさい、ちょっとわからないですね」

男性とのやりとりを見ていたバイザーの先生から後ほどフィードバックをいただきました。

「文字を示したり、書いていただくよう促したりしたのはよかったと思います。でも、簡単に『わかりません』とあきらめてしまいましたね。もっと他の方法を探って、できる限りの努力をしてほしかった」

バイザーの先生はコミュニケーションノートを使う方法など助言してくださいました。

利用者さんの伝えたいことを理解するために最大限の努力をすること。
このとき学んだことが、私のSTとしての姿勢の基盤です。

できることを尽くして「そういうことですね。わかって、よかった」までたどり着けたら、安堵します。

どうしてもわからないときでも
「ここまではわかりましたよ、がんばりましたね」
「伝えようとしてくださって、うれしかったです」
というメッセージは必ず伝えるようにしています。

利用者さんに思ってもらえたらうれいしいこと。
「この人と話したい」
「この人ならわかってもらえそう」
「この人は自分をわかろうとしてくれているな」

以前も書いたことがありますが、大事にしたいのは「利用者さんが話したい気持ちを持ち続ける」こと。
話せるようになっても、伝えたいことがなかったり、話したい相手がいなかったりしたら、何にもなりません。

今回でST水野(松原)の日記、150記事です。
お読みくださり、ありがとうございました。
posted by Active at 10:32| Comment(0) | TrackBack(0) | ST水野(松原)の日記
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