はじめに田中さんのご紹介の後に、今回の対話のテーマに沿ったALSと尊厳死と安楽死、生と死について、少しだけ哲学的な視点にも触れながら話題提供をさせていただきました。
今回の講義依頼のあと先月7月下旬にあった事件です。
今も社会的な様々な論争がメディアやインターネットの中でも巻き起こっている状況です。
すぐに明確な答えにたどり着くのは到底難しい尊大すぎるテーマです。
そこで、換気や身体的距離の保持等の感染拡大防止策を施しながらも、全員参加型のオープン・ダイアログ・ワークショップで学生さんが対話のなかでお互いを触発しながら広く意見を聴くことができるようにすることを念頭において、一方通行になりがちだった従来のトークライブの進行から"場づくり"をもう一度考え直してみました。
▼ダイアログ(対話)について
▼田中さんトークライブ
最前列中央付近にテーマについて話す対話グループの学生さん3〜4名に距離を保って集まってもらいました。
対話グループの学生さん各々の真剣な意見や見解を話すダイアログ(対話)の様子を、前列側方に集まってもらった観察グループの学生さんに観察してもらいました。
観察グループからダイアログについての客観的な意見や捉え方を話してもらい、ダイアログを会場のみなさんで振り返るようにしました。
グループは10分毎に入れ替わってもらい、たくさんの方々からの意見を、話し聞きできるようにしました。
「とても難しいテーマなので、事件を知っている学生さんから先ず話してもらいましょう」
と、田中さんからの始まってすぐのご提案があり、進行を変更しました。
そのおかげで、今回の事件から学生さんが感じたたくさんの意見や捉え方を聴くことができました。
対話グループから、
「本人しか気持ちがわからない」
「その人の状態に応じた環境づくりが必要」
「自分の人生やから自分で決めたい」
「安楽死がなぜ認められないのか、なぜ法制度化されないのか」
「本人の希望に添うことがいいのでは」
「本人の詳しい状況が分からないが悲しい」
「死にたいと思っている人はいない」
「死にたくないのに生きたいはずなのに死ぬ方にいく環境にあるのかな」
「死にたくはないのに、本人に不本意な選択を迫る環境や社会があることがわかった」
「テレビ等のニュースだけでは分からないことがあることがわかりました」
「たくさんの視点があることがわかり、捉え方も変わってくることがわかりました」
等…
生について、死について、安楽死の容認、慎重、反対など様々な意見や見解を聴くことができました。
観察グループから、
「みんな自分の意見を持っていてスゴい」
「各々の意見、捉え方があることがわかりました」
等…
ダイアログを客観的に振り返ることができ、より視点や捉え方が深くなったように感じました。
随時田中さんからも意見をもらいながら、学生さんの互いの考えを深掘りしていただきました。
そうしたこともあったためか最後は今回の講義まで事件を知らなかった学生さんからも意見を聴くことができました。
今回の場づくりについては、田中さんや教員の方々とも相談して検討を進めました。
何より先日OT内島さん(吹田)が参加された精神科看護関連の研修グループワークを大いに参考にさせていただきました。情報ありがとうございます。そのおかげで当初から考えていたオープン・ダイアログのアイディアを一気につなぎ合わせて開催することができました。
そして、田中さんとのトークライブです。
緊張するとのことでしたが、トークライブは今回で4回目ということもあり、もうすっかり慣れておられ堂々とご自身の見解を冷静かつ流暢に話されます。
今回もこの場で初めてお聴きするお話しがありました。
田中さんと同年代で同じALSを発症され、60歳代で亡くなられたお父さまと、別のご病気により亡くなられたお母さまへの複雑な思いを話ししてくださいました。
田中さんの発症を常に心配していたお母さんが亡くなられてから、わざと遅らせてALSの確定診断を受けたお話しもありました。
「母が亡くなっていなかったら確定診断するための検査は受けてないと思います」
上衣の着脱の様子を見せていただきました。

多いに動作分析の参考になりました。
「やれることをやる」。
ご自分への決意表明のようでした。
ALSという難病を受け止めて、仕事と治療を続けておられる今を田中さんご自身の言葉で語っていただきました。
今日の対話のテーマ「女性ALS患者さんの嘱託殺人についてどのように考えるか」について田中さんは、
「とてもショック、ビックリした」
「主治医でもない医師がお金をもらってするのは容認できない」
「(同じような状況でもあれば)主治医等に相談していきたい」
と、冷静にはっきりとした口調で話されていました。
また、安楽死の推進は、19世紀の優生思想に基づく優生学、ナチス・ドイツの断種政策、T4作戦(障害者安楽死作戦)のように誤った方向へ、向かっていくことにもつながりかねないと警鐘を鳴らしておられました。
田中さんは今回の事件の報道を受けて、すぐに頭に上記のことが浮かんだとのことでした。
そのお話しを事前打ち合わせでおうかがいしたときにわたしもハッとさせられ、慌てていくつかの文献を読み、ネット検索をしました。
▼参考↓
ALSだけに関わらず、各疾患のその時々の病期や状況、個々の精神心理、性格等に応じて、治療方針等のに変更を許容できるような法整備や治療・介護環境に…とても難しいことかもしれませんがそんな世の中になればいいのかな…と思ったりします。
医療・生命倫理の四原則からも、医療従事者として、一市民としても、ALSのように進行する疾患や障害により、治療やコミュニケーション環境、介護環境の未整備のため、死にたくはないのに死を選ばざるえないような悲しい世の中になってしまってはいけないのではないかと考えます。
▼引用・参考↓
医療従事者として、最新の治療や環境整備などについては常にアップデートし、最善を尽くすことはもちろんのことです。
その上で今私たちがすぐにできる関わりとして、アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)とナラティブ・アプローチ(ナラティブ・ベースド・メディスン)があるのではないかと考えています。
▼参考↓
特に意思決定が難しい状況の方々の意思決定・意向推定の材料になるのでは…と思っています。
アドバンス・ケア・プランニング
ナラティブ・ベースド・メディスンとナラティブ・アプローチ
医療者として、介護者として、家族として、進行や悪化をし続ける病いや障害を傍らで見守るなか…
"この方ならどうするだろうか"
"この方ならどうしたいだろうか"
"この方なら何を望むのだろうか"
"こんな時ならどうしてほしいのか"
認知症や重度の失語症、がん患者の方々にも、ご本人、ご家族からの聞き取りなどの関わりやご家族自身による患者さんへの日頃の関わりからでも十分に活用できると思います。
臨床推論やクリニカルリーズニングにもつながることかと思います。
患者と医療従事者のあるべき関係性について、作家の柳田邦男さんが提唱する2.5人称の視点。
自分の家族に寄り添うような温かさ(2人称)と専門家としての知識と能力(3人称)を兼ね備えて、そのあいだを状況に応じて行ったり来たりできる"2.5人称の視点"が、アドバンス・ケア・プランニング(人生会議)とナラティブ・アプローチ(ナラティブ・ベースド・メディスン)を進める上でも大切な視点になるはずです。
▼参考↓
▼ "Beyond borders"境界を越える、医師との"治療同盟"を築く (2019年7月20日第17回日本臨床腫瘍学会学術集会の患者、家族、一般の方向けのプログラムより)
今回の対話&トークライブに快く応えてくださった田中さん、熱心にたくさんの意見を話してくれた学生のみなさん、場づくりに協力していただいた白鳳短大OT出田先生、ありがとうございます。
今回の白鳳短大のOT学生さんは一年次に、弊社の就労継続支援事業所のカフェオーディナリー松原での地域リハ講座&森さんトークライブ交流会でお会いしています。
▼今年の交流会
2016年から毎年交流が続いていることを嬉しく思うと同時に、今回の対話からみなさんの成長ぶりがとても伝わってきました!すっかり顔つきが変わっていてスゴいです。
参考・追記)
▼ JaCALSは、患者様の臨床・遺伝情報の解析を通じて、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の病態解明と治療法の開発を目指す研究組織です。ALSの未来を切り拓くため、ご協力をお願いします。
▼一般社団法人日本ALS協会
▼今回の話題提供では紹介出来なかったALS治療に関する研究の情報↓
追記2)
応援と勉強のため急遽、参加してくれた新人OT我如古さん(がにこ、吹田)からも最後に話しをしてもらいました。
堂々と話す姿がとても頼もしく感じました!


☆トークライブに同行して感じた事☆
こんにちは、白鳳短大OT学科にて神経難病ALSの田中さんトークライブを写真撮影係として同行させてもらいました。アクティブデイサービス吹田の一年目OT我如古(がにこ)です。
はじめに、今回、学ぶ機会を設けてくれた、伊藤さん並びに、日常や心情を教えて頂いた田中さん、学校の方々、同行する時間を作ってくれたデイスタッフの方々に感謝申し上げます。
”当事者の声が生で聴ける”という機会は、医療・保健・福祉従事者になれば、患者さん、利用者さんと出逢う度積み重なっていく日常ではあります。
ですが、講堂に向かう前に先生の方から「コロナの影響で、実習に行けない生徒が多く、少しでも当事者の方と接する機会を増やし、何かを得て欲しい。」という願いを聞き、わたしの母校ではありませんが、約半年ぶりに講堂にて、机に向かう白鳳短大の生徒の方々を見て、自身の学生時代の思い出と共に、あの頃の友人・先生の顔が浮かびました。
また、そのせいか当時の気持ちが蘇り、”当事者の声が生で聴ける”という機会は学生にとって、また経験の浅い私にとってとても有意義な時間だと感じることが出来ました。
それが故に、写真撮影を任されていたのですが、数枚しか撮れず、大したお役に立てなかった事・・・(すみませんでした。)
そして、今回の対話のテーマであった嘱託殺人について、学生さん同士で意見交換をした際、最初に意見を述べた学生さんにつられ、偏った意見が揃うのではないかと予想していました。
しかし、伊藤さんの
「どんな意見にもこの問題には答え(正解)はない。つまり、皆さんの意見・考えに間違いはないので、自由に気持ちのままに考えを教えてください」の一言と、
田中さんの
「まずは事件を知っている方からお話を聞いてみましょう。」
という配慮を合図に、それぞれの意見を述べてくれました。
各々、視点や考えが異なり(伊藤さんブログに内容を記載)驚きました。
”生と死” ”尊厳死と安楽死”。
重いテーマに、言葉にするのが難しそうにしながらも、一生懸命に自分の意見を聞いて述べる生徒さんもいました。
田中さんは最後まで学生を見つめ、ゆっくり頷かれて居ました。
そして、最後に、
「皆さんがそれぞれ沢山の考えを持っていることが嬉しいと感じました。」
とお話されていました。
私は、その言葉を聞いて、これまで田中さんが、幼少期に見ていた父の姿、そして心配させぬよう母に隠し通し抜いた心情。
今も自分らしく”やれる事をやる”精神で戦っている田中さんが、この事件が起きてしまった事に対し、深く悲しみ、また再度自身と向き合い今後について自問自答視している最中、当事者だけでなく、これからの医療従事者も同様に事件を通して考えさせられ向き合っている事(痛みの共有)に安堵されたのではないかと感じました。
また、この講義を終え、私自身も医療従事者として、現在担当させて頂いている利用者様並びに、これから出逢う利用者様に向き合い、2.5人称の視点を持てるように信頼関係を築きながら、ナラティブ・アプローチ、アドバンス・ケア・プランニングを意識していけたらなと感じました。
最後に私は田中さんとは初対面、かつ、これまでALSの方と直にお話した事がなく、どのように接するといいのか。
どのような会話(内容・話すスピード)など考え、緊張していました。ですが、田中さんの柔らかな印象、穏やかな口調にすぐに打ち解け、自動車での行き道は大阪の土地のお話や奈良の風景の美しさの話や普段の田中さんの日常、今回のトークライブの意気込みを、どこか緊張した面持ちの田中さんとお話することができました。
そして帰り道は、トークライブを振り返り、各々の感想や、「ここが良かった。」と称賛したり、「もっとこう出来たらな。」と終わって直ぐ次のトークライブの想像を膨らませ、無事トークライブがおわりホッとした雰囲気で笑顔の溢れる田中さんと関わることができ、改めて、ICFの項目でいう活動・参加という面でのOTとして役割を、また利用者様の可能性や挑戦するきっかけを作る大切さを知ることができました。
改めまして、今回のトークライブに参加させていただき、ありがとうございました。
心意気実践チームは…
利用者さまの自立生活支援、重度化予防、QOL向上に資するご自分の価値やあり方を見い出すお手伝いを微力ながら出来ればと考えています。
その先にある”自分らしさ”を一緒に追求します。